高齢化が進むなか、介護施設で働く看護師のニーズも高まっています。
「介護施設と病院の違いは何だろう」「介護施設の仕事内容をくわしく知りたい」このように考えている看護師の方もいるのではないでしょうか。
看護業界では介護施設の看護師は辛い、給料が低いという噂もあり、病院を離れて働くことに躊躇する方も多いかもしれません。
本記事では、介護施設で働く看護の仕事内容や役割、介護施設で働くメリット・デメリットについて解説します。
介護施設で働く看護師の仕事内容
介護施設で働く看護師の主な仕事は、入居者が健康で安心して生活できるように医療面からサポートを行うことです。
主な仕事内容は以下です。
- 健康管理
- 内服管理
- 医療的なケア(経管栄養、吸引、在宅酸素管理など)
- 緊急時の対応
- 往診時の補助
- 生活面のサポート(食事介助、排泄介助、歩行介助など)
それぞれについて、くわしく説明します。
健康管理
バイタルサインや食事摂取状況、排泄状況などを観察し、日々の健康管理を行います。
介護施設に入居されている方は慢性的な疾患を抱えている方が多く、病状が落ち着いていても日々の観察はとても大切です。
入居者一人一人の情報、特に既往歴などからどのような看護が必要かをアセスメントし、日々の観察を行います。
内服管理
介護施設では薬剤師が常駐していないため、薬局から届いた内服薬を看護師がセットする施設が多いです。
複数の疾患を抱えている入居者も多く、内服薬の種類はとても多いです。また、冷所管理などの配慮が必要な薬剤もあります。
入居者の体調は日々変化するため、状態に合わせて内服を調整するのも重要な仕事です。
とくに下剤や利尿剤、昇圧剤、降圧剤、糖尿病薬などは、状態によって調整しないと入居者の身体に負担がかかります。
処方されているから配薬するのではなく、常にリスクがないかをアセスメントすることが大切です。
筆者が働いていた介護施設では、内服薬の調整についてあらかじめ医師に確認するようにしていました。
介護施設では、医師が常勤していない施設も多いです。また、医師とすぐには連絡がつかないということもあります。
日々のアセスメントから起こりうる事態を予測して、対策しておくことが重要です。
医療的なケア(経管栄養、吸引、在宅酸素管理など)
介護施設では医療的ケアを必要とする入居者も多いです。看護師は医師の指示のもと、おもに以下の医療的ケアを行います。
- 経管栄養(胃ろうなど)
- 中心静脈栄養
- 褥瘡(じょくそう)の処置
- ストーマの管理
- 導尿、バルーンカテーテルの管理
- 排便の処置(坐薬、摘便など)
- 注射・点滴・採血などの処置
- 喀痰(かくたん)吸引
- 在宅酸素
- 人工呼吸器の管理
医療的ケアは基本的に看護師が行わなければなりませんが、平成24年4月から「介護サービスの基盤強化のための介護保険法等の一部を改正する法律」によって、介護福祉士、及び一定の研修を受けた介護職員等において喀痰吸引、経管栄養が認められるようになりました。
介護施設によっては、看護師が常駐していない施設もあります。
看護師不在の間の対応を明確にするためにも、介護士が行なってもよいとされている医療的ケアをしっかりと把握しておきましょう。
また、厚生労働省は「医療行為でないもの」を明示し、各都道府県あてに通知しています。
以下のケアは医療行為に当たらないため、介護職員でも実施できます。
- 水銀体温計・電子体温計による腋下の体温計測、耳式電子体温計による外耳道での体温測定
- 自動血圧測定器により血圧測定
- 新生児以外で入院治療の不要な者へのパルスオキシメータの装着
- 軽微な切り傷、擦り傷、やけど等について専門的な判断や技術を必要としない処置(汚物で汚れたガーゼの交換を含む)
- 軟膏の塗布(褥瘡の処置を除く)
- 湿布の貼付
- 点眼薬の点眼
- 一包化された内用薬の内服(舌下錠の使用も含む)
- 坐薬挿入
- 鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助
また、通知では、医師法や歯科医師法、保健師助産師看護師法の規制対象外となる以下の6つの行為も明らかにしています。
- 爪切り、爪ヤスリによるやすりがけ
- 歯ブラシや綿棒、または巻き綿子などによる歯、口腔粘膜、舌に付着した汚れの除去
- 耳垢の除去(耳垢塞栓の除去を除く)
- ストマ装着のパウチにたまった排泄物の廃棄(肌に接着したパウチの取り替えを除く)
- 自己導尿の補助としてのカテーテルの準備、体位の保持
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸
引用:厚生労働省「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)」
緊急時の対応
急変時の対応は施設看護師の大切な仕事です。
介護施設に入居している方は、基本的に入院治療が必要な状態ではありません。
しかし、複数の疾患を抱えている方が多く、ときには急変することもあります。
また、介護施設は24時間体制で介護を提供していいるため、食事の際の窒息や誤嚥、転倒・転落による怪我などさまざまなトラブルが起こります。
看護師は急変時に正確に状態を観察し、医師に報告します。施設でできる処置があれば行い、必要があれば救急搬送の手配などを介護職員と連携して行います。
看護師が救急車に同乗し、病院へ付き添うこともあるでしょう。
急変時に慌てないよう、緊急時に使用する薬剤の確認、AEDの設置場所の把握などをしておくと安心です。
何より大事なのは急変にいち早く気づくことです。介護施設には認知症や障害により自分の状態を伝えることが困難な入居者も多くいらしゃいます。
「いつもと何か違う」「何かおかしい」と感じるようなことが、急変につながることもあります。「いつも」の様子を知っておくために、日々の観察を丁寧に行うことが大切です。
往診の補助
月に2~3回ほど医師による往診があり、看護師は診療の補助に入ります。
往診は月に数回しかないため、入居者の状態の変化を医師に伝えて内服を調整したり、新たに処方をいただいたりします。
点眼や軟膏などの残薬を確認し、不足があれば依頼を行うことも大切です。
ターミナルの入居者がいるときは、医師と家族の面談をセッティングすることもあります。
生活面のサポート
介護施設は生活の場であるため、医療行為は少なく、生活面のサポート業務が多くなります。
筆者の勤務していた介護施設では、生活面のサポートはほとんど介護士が行っていましたが、特別な配慮が必要な入居者は看護師が対応していました。
例えば、褥瘡のある方のオムツ交換や体位変換、嚥下状態の悪い方の食事介助などです。介助の際に皮膚の状態などを観察したいときや、安全面に不安のある方は看護師がケアを行うとよいでしょう。
状態に合わせたケアを行うために、介護士との連携はとても大切です。職種を越えてコミュニケーションを取り合い、情報を交換し、入居者の状態に合わせたサポートを行います。
介護施設で働く看護師の役割
介護施設で働く看護師のおもな役割は、入居者の健康管理を行うことです。
医師が常駐していない介護施設では、健康面のサポートは看護師に委ねれています。
医師への報告はほとんどが電話で、入居者の状態を直接見ることができません。
そのため、介護施設で働く看護師の観察力、判断力は非常に重要になるのです。
とくに夜間帯に看護師が不在になる施設では、考えられる事態を予測し、体制を整えておく必要があるでしょう。
また、介護職員にアドバイスすることも看護師の役割の一つです。
たとえば、褥瘡がある方のポジショニングや、入浴の際の洗浄の方法です。
ケアの根拠や方法についてわかりやすく説明し、入居者の状態に応じたケアを提供できるようにアドバイスをします。
介護施設と病院の違い
介護施設と病院の大きな違いは、介護施設に医師が常駐していないことです。
入居者の体調不良の際に「そのまま様子をみていいのか」「医師に報告が必要か」「すぐにでも救急車を呼んだほうがいいのか」などの判断は看護師に委ねられます。
病院と比べて看護師の数も少なく、ときには一人で判断をしなければならないこともあるでしょう。介護施設で働く看護師は、状態をしっかりと把握し、対応できる力が求められます。
看護師が介護施設で働くメリット
看護師が介護施設で働く際のメリットについて、筆者が実際に感じたことを3つ紹介します。
①残業が少ない
介護施設では残業がほとんどありません。病院のように検査や急な入院はなく、急変も少ないためです。
筆者は9〜16時の勤務でしたが、ほとんど時間内で業務を終えて帰宅していました。
残業が少ないのは子育て中の方には嬉しいメリットです。
②経過がゆっくりである
介護施設では慢性的な疾患を抱えている方が多くいますが、経過は比較的ゆっくりです。
病院のように1日ごとに状態が変化するということは少なく、落ち着いてケアすることができます。
医療的な処置も少なく、スケジュールに余裕があります。わからないことがあったら調べながらケアできるため、手術室経験しかなかった筆者にとっては良い環境でした。
介護施設は病院と比べると経過がゆっくりなため、ブランクのある方や経験の浅い方でも安心して働けるでしょう。
③体力的、身体的な負担が少ない
介護施設は日勤のみの勤務という施設も多いです。
生活リズムが整いやすく体力的な負担が少ないため、比較的年齢の高い看護師も多く働かれています。
また、生活面のサポートは介護職が行うことが多いため、体位変換や移乗などの身体に負担がかかる介助を看護師が行うことは少ないです。
介護施設では体力的・身体的な負担が少なく、体力に自信がない看護師でも安心です。
看護師が介護施設で働くデメリット
看護師が介護施設で働く際のデメリットについて、筆者が実際に感じたことを3つご紹介します。
①判断力が問われる
介護施設はほとんどの場合医師が常駐していません。そのため、医療面のすべての判断を看護師が行うことになります。
筆者が働いていた介護施設では看護師2人体制であったため、何かあったときは相談して判断するようにしていました。
病院と比べると技術や経験は求められないといわれていますが、不測の事態に一人で判断できる程度の経験はあるほうが安心でしょう。
②看護師が少ない
介護施設では看護師の人数が少なく、4名程度であることが多いようです。
筆者が働いていた施設では基本的には2名体制でしたが、1人体制の日もありました。落ち着いているときはよいのですが、転倒・転落や急変などのイレギュラーな事態が起こってしまうと1人で対応するのは大変でした。
③看取りがつらい
介護施設では、利用者と長期にわたり関りをもつことができます。
介護施設ではスケジュールに余裕があるため、じっくりお話をしたり、一緒にレクリエーションを行ったり、散歩に出かけたりすることもあります。
長ければ数年間毎日のように共に過ごしすため、看取りがつらいと感じることもあるでしょう。
しかし、じっくりと関わることができ、看取りまでできるということは施設看護の魅力でもあります。
入居者のことをよく知っているため、その人らしい看取りができるでしょう。
介護施設で働く看護師の給料
介護施設の看護師の給料は低いというイメージがある方は少なくありません。
「令和2年度介護従事者処遇状況等調査結果」によると、老人ホームで働く常勤看護師の平均給料は31万円で年収に換算すると約456万円です。
厚生労働省の「令和2年賃金構造基本統計調査」では看護師全体の年収は約492万円で、施設看護師の給料は40万円ほど低いことがわかります。
施設看護師の給料が低い理由は、病院と比べて残業が少ないことと、施設によっては夜勤がないことです。
医療ニーズが低いデイサービスやグループホームでは夜勤や残業がない施設が多く、その分給料が下がる傾向があります。
施設ごとの常勤看護師の年収は以下の通りです。
施設 |
常勤看護師の年収
|
介護老人保健施設
|
5,387,544円 |
有料老人ホーム | 5,135,664円 |
特別養護老人ホーム
|
5,071,824円 |
グループホーム | 4,771,332円 |
デイサービス | 4,251,828円 |
介護施設で働く看護師の年収は、施設によって大きく差があります。介護老人保健施設では、常勤看護師の平均年収は538万円と高めです。
介護老人保健施設は在宅復帰を目的として医療ケア・リハビリを行う施設であるため、医療ニーズが高いです。基本的には夜勤があるため、病院と変わらない給料になっています。
このデータを見ると、有料老人ホームもグループホームやデイサービスと比較すると高給です。しかし、有料老人ホームは民間が運営しているため、設備やサービスの質は施設により異なります。
設備・サービスが充実している有料老人ホームほど収益が大きいため、その分職員の給料も高くなりますが、施設によって幅があるのが特徴です。
まとめ
今回は介護施設で働く看護師の仕事内容や役割、メリット・デメリット、給料について解説しました。
施設看護の魅力は、比較的ゆっくりとしたペースで看護を行えることです。残業が少なく、体力的な負担を抑えて働けるため、子育て中の方やブランクのある方にもおすすめです。
高齢化が進むなか、今後ますます施設看護師のニーズは高まっていきます。
転職を考えている方は転職サイトに登録したり、気になる施設があれば見学をしたりするとよいでしょう。